【コラム】VTuberで話題沸騰中の「ANYCOLOR」の株、イマ買うべきか?
- 2022/6/16
- IPOセカンダリー
「VTuber」という看板を掲げ、意気揚々と6月8日に上場したANYCOLORは、市場の期待通り公開価格の3倍以上の初値で寄り付いた後も、好業績と成長期待を背景にさらに上昇を続け、時価総額も2,300億円に達し、その勢いは飛ぶ鳥を落とす勢いといえます。そんなANYCOLORの株ですが、今後も上昇していくのかどうか、まさsにイマ買うべきどうかについて、①過去のIPO株、②類似銘柄、③業績の3つの視点から占ってみたいと思います。
初値高騰銘柄のその後
初値が公開価格の3倍以上(騰落率200%以上)となったIPOは2012年以降106件ありますが、では、それらの銘柄は上場後も上昇したのか、または下落したのか、まずは客観的なデータから見ていきます。以下は初値が3倍以上となった銘柄の6ヵ月後と1年後の株価の騰落をまとめたものです。なお、騰落率は初値を基準として計算しています。
▌6ヵ月後の株価騰落
件数 | 勝率 | 平均騰落率 | |||
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(初値が公開価格比3倍以上で、6/14現在上場している銘柄)
6ヵ月後の株価騰落率を見てみると、データのある103件のうち初値より上昇した銘柄は23件で、勝率(初値で買ってプラスになっている割合)は22.3%しかありません。つまり、初値3倍以上の銘柄を初値で買っても、6ヵ月後には4分の3以上はマイナスになっているという極めて分の悪い投資ということになります。また、6ヵ月後の平均騰落率は-17.0%、中央値は-35.3%なので、初値から20~40%くらいの下落は容易に起こりうると考えたほうがよさそうでうす。
6ヵ月後の初値からの騰落率分布
▌1年後の株価騰落
件数 | 勝率 | 平均騰落率 | |||
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(初値が公開価格比3倍以上で、6/14現在上場している銘柄)
次に、1年後の株価騰落率を見てみると、データのある100件のうち初値より上昇した銘柄は24件で、勝率は22.3%、平均騰落率は-15.5%、中央値は-48.3%なので、6ヵ月後と比較しても中央値のマイナスが大きくなっており、より大きな下落を覚悟する必要があります。一方で、初値から2倍(騰落率200%)以上上昇した銘柄も少ないながら7件あり、ここ最近では、19年12月上場のAI insideと20年12月上場のENECHANGEがそれぞれ1年後には4倍超の上昇を記録しています。
1年後の初値からの騰落率分布
上記のとおり、初値が3倍以上となった銘柄の多くは6ヵ月後、1年後には大きく値を下げているものの、銘柄によってはAI insideやENECHANGEのように上場後さらに上昇したケースもあり、ANYCOLORもそれらの銘柄と同じように上昇していく可能性がない訳ではありません。ただし、AI insideとENECHANGEについても、現在では初値と同じ水準かそれ以下まで下落していることからも分かるとおり、常に大きな下落リスクが潜んでいると認識しておくことが必要かもしれません。
類似銘柄から今後を占う
ANYCOLORはVTuberグループの運営を事業としていますが、類似の事業を手掛けるUUUM(YouTuberの制作マネジメントやサポート事業)が17年8月に上場していますので、ここではUUUMの上場後の値動きと業績を見ていきます。
UUUMの初値は公開価格比で3.3倍とANYCOLORの3.1倍とほぼ同じくらいの人気を集めましたが、初値が高騰したこともあり上場直後から売られ、6ヵ月後の騰落率は-24.9%、1年後でも-25.2%と、しばらくは初値以下の水準で推移していました。
しかし、18年8月頃から好決算や株式分割を材料に上場の初値を超える展開に入り、そこから一気に上昇トレンドに入っていきます。特に、19.5期の業績予想の発表が株価の大きなトレンド転換点となり、最終的に株価は7月から翌年1月までの半年という短期間で4倍近い上昇を記録しました。
なお、大きく上昇したUUUMの株価ですが、その後は成長の鈍化や利益の減少から売られ、ほぼ1年で上昇前の水準に戻り、その後の業績を見ても、売上や利益は安定しているものの、市場からの期待からは程遠く、株価は下がり続け、現在では初値以下の水準となっています。なお、直近の株価は回復傾向にありますので、ここらかの復活を期待したいところです。
▌UUUMの株価情報(2022/6/15 15:00)
現在値(前日比) | 初値比 | 公開価格比 | |||
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(18.9に1:3の株式分割を実施)
時価総額 | 発行済株式 | PER | PBR |
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270 億円 | 1,989 万株 | 50.7 倍 | 6.28 倍 |
株価の推移
▌UUUMの企業情報
企業HP | https://www.uuum.co.jp/ |
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事業概要 | YouTuberの制作マネジメントやサポート事業。動画配信・ゲーム配信や動画広告も。 |
業種 | 情報・通信業 |
上場日 | 2017/8/30 |
業績から今後を占う
最後に、ANYCOLORの最新の業績から今後の株価を占ってみましょう。
6月14日に発表した決算によると、22.4期の売上高は前期比85.4%増の141.6億円、最終利益は同3倍の23.8億円に伸び、23.4期も売上高は44.2%増の200億円、最終利益は1.8倍の42.1億円を見込み、5期連続増収、3期連続増益とまさに順風満帆の決算でした。株価も好決算を材料に上場から連日高騰しており、初値4,810円から7,700円(15日終値)と1週間で60%超の上昇で、上場の船出は順調そのものといえます。では、この株価の上昇はいつまで続くのでしょうか、事業の成長性という観点でもう少し詳しく業績を見てみましょう。
決算期 | 19/4 | 20/4 | 21/4 | 22/4 | 23/4 予 |
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売上高 | 867 | 3,479 | 7,636 | 14,164 | 20,000 |
経常益 | 47 | 42 | 1,451 | 4,149 | 5,980 |
最終益 | 30 | 32 | 937 | 2,793 | 4,210 |
純資産 | 90 | 2,704 | 3,526 | 6,318 | - |
総資産 | 278 | 3,591 | 6,230 | 9,353 | - |
※単位は百万円、23.4予はレンジ予想の平均値。
▌売上高から成長性を占う
直近の事業別の売上推移を見ると、四半期毎の売上はキレイな右肩上がりに見えるものの、直近4Qの伸びがやや弱く、プロモーションの減収が気掛かりです。前年の4Qも落ち込んでいるので季節性の影響も考えられますが、次の23.4期の1Qの決算でどこまで伸びているか確認したいところです。一方で、21年5月から開始したNIJISANJI ENは急速に成長しており、4Qには8億円の売上を達成しており、今後、会社の成長のエンジンになれるか注目です。
事業領域別の売上高推移(四半期別)
▌国内は飽和状態
次にVTuberの利益の源泉となるYouTubeの再生時間の推移を見ると、日本の再生時間はここ1年はほぼ横ばいとなっており、国内のVTuber市場が既に飽和状態になっていることが分かります。そのため、VTuberの数をいたずらに増やしてもパイの取り合いにしかならず、収益拡大に繋がらない可能性もあります。今後はVTuberの「数」ではなく「質」にシフトしていくとが必要であり、会社ではバーチャルタレントアカデミーにより、中長期で活躍できるVTuberの育成をしていくとしています。
YouTube再生時間とVTuber数
ANYCOLORがほんの数年で急成長を遂げた背景には、それまで3Dモデルが中心だったためにコストが掛かりがちだったVTuberの制作を、2次元のイラストで簡単に動かせるLive2Dの技術を使って、多数のVTuberを一気にデビューさせ、さらに大きなグループを作って企画配信やコラボ配信をすることで、短期間にVTuber市場のリスナーの囲い込みに成功した点にあるといえます。特に、コロナ渦で家で一人で過ごす時間が増えた20~30代のリスナーには、チャットを使った双方向コミュニケーションが受け、ゲーム配信や雑談配信は彼らの大きな娯楽となりました。
現在、国内にはANYCOLORのほかにホロライブという大手のVTuber事務所があり、この2つの会社がVTuber市場をけん引してきましたが、VTuberの数はここ数年で急激に増え、今や個人勢を含めると1万人以上いるといわれています。また、Withコロナという考え方が浸透し、コロナ以前の生活に戻ろうとする動きが活発化すれば、外に遊びに出掛ける時間も増え、VTuberの配信を視聴する人や時間が今後減っていくかもしれません。国内のVTuber市場は既に飽和状態です。今後は限られたパイの取り合いになっていくことが予想される中、ANYCOLORがリスナーを繋ぎ止める手を打てるかどうか、また、海外で新たなリスナーを獲得できるかどうかが、会社の成長を維持する大きなカギになってきそうです。今の成長が維持できれば、株価もUUUMのように初値から2倍、3倍と上昇していくことも十分に可能ではないかと思います。
最後に、ANYCOLORの株が今後さらに上昇していくのかどうかについて、個人的な予想(精度は低いです。)を一言だけ。 15日現在の株価は7,700円と初値から既にかなり上昇していますが、この勢いで10,000円くらいまでは上昇するのかなと思っています。会社設立からたった5年で時価総額が2,000億円と聞くと、少し怖いくらいの勢いですが、今のところ成長性にやや不安はあるものの、現状では利益率も高く、今期の業績予想も一定程度の成長が見込まれるものだったため、短期的には上昇トレンドが続く気がします。また、現在のPER54.9倍は上場間もない人気銘柄にしては比較的低い方なので、上昇の余地はあるかなと思うので、キリよく10,000円を予想ラインにしています。
ただ、中長期で見ると、やはり事業としては一発屋的な感が拭えず、「モノ」ではなく「人」を売りにしている点でも多くの面でリスクは高く、数年後には初値どころか公開価格の1,530円まで下落していても不思議ではないかなという印象です。なので、長期投資については少し懐疑的です。
今回はイマ最も注目を集めているANYCOLORついて取り上げました。今後も、上場して間もないIPO株の中で、先行きが面白そうな銘柄があれば随時取り上げていく予定にしていますので、お楽しみに。